人類は奇怪に進化する

¥ 200,000

SOLD OUT

人類は奇怪に進化する。

ミクスとメディア 紙
作品サイズ 47.5×24cm
額サイズ 66×43cm
2020年
作品証明書

作品「人類は奇怪なる進化をとげる」

このところの田中拓馬は、まるで過去からの脱却を目指しているように精力的に次々と新機軸を打ち出しているが、この作品もそのひとつであろう。

画面に大きく描かれているキャラクターは作品のタイトルの通り“奇怪”であり、恐ろしさとユーモラスなところとをあわせ持っているが、それだけではなく不可思議な魅力を感じさせるところがある。まず目が行くのは、輝いているように見える顔の部分であろう。その表情は、何とも言い難いところがあり、驚いているようでもあり、とぼけているようでもある。また、目の中に“ネコウサギ”(彼の近年の作品に多く登場するキャラクター)が描かれているのも意味深であり、表情と合わせて作品の謎が深まっていくように感じる。

一方で、胴体から下を見ると、その多くの手を持ち魚の尾ひれを持った異様な形態も印象的だが、それと共に、尾ひれの部分から漂っているような赤色が独特の雰囲気を醸し出している。この作品制作と近い時期に描かれた「21世紀のムンクの叫び」や「新人類coming!」という作品では、近い色が、社会の不安や混乱を連想させるように使われていたが、この作品でもそれを引き継いでいると考えられるかもしれない。ただし、以前の作品では、赤系統の色が作品全体の基調と言えるほどの大きさを占めていたが、本作品ではその色は決して支配的ではないということに注意する必要がある。

ところで、私がこの作品で最も気になっているのは、首のあたりから左右に伸びた赤と白の縞模様の<なにか>である。これが何かははっきりはしない。しかし、これが何かを考えるよりも、まずはこれが頭と胴体を二分していることに注意を向けるべきかもしれない。前作「新人類coming!」でも、田中はあえて頭と胴体から下のタッチを変えることにより、まるで頭と胴体が別の存在であるような表現を行った。この作品でも、頭の色と胴体から下の色ははっきりと異なっていることがわかるであろう。その描き方に注目するとき、<なにか>は、頭と胴体の分離を覆い隠すとともに分離を表現するという矛盾した位置づけを持つことになる。この<なにか>が何なのかは、おそらくこの作品をどれだけ見てもはっきりとは特定できないものであろう。しかし、長く作品を見るうちに、私にはこの「なにか」が画面の“裂け目”のように見えてきた。

画面の、つまり「世界」の“裂け目”から顔をのぞかせた奇怪な存在。これは、異世界の存在を示唆するとともに、“誕生”も暗示しうるであろう。そして、作品タイトルにある「進化」という言葉は、「新しい種の誕生」を意味する言葉でもある。もしこの作品が“誕生”を暗示しているのであれば、どのような存在が誕生したのであろうか。作品上部など3か所に描かれたハートマークは、祝福をイメージさせるとともに、顔の輝きと共に力強いエネルギーを感じさせる。一方で、先述した下半身の赤色や胸のあたりに描かれた「¥€$」の文字は、コロナに象徴される不安感や資本主義の混乱を連想させる。さらに画面の他の要素に目を移すと、上部の月や星、そして下部の海には、不吉な汚れのようなものが描かれており、太陽も影のようなもので覆い隠されている。このような相反する2つの要素が、“裂け目”でもって分離し、かつ接合されている。そのように考えると、目の中に“ネコウサギ”がいることも、身体の中にある異物の象徴と言い得るのではないだろうか。

つまり、「進化」によって誕生した奇怪なるものとは、コロナウイルスに象徴されるような異物と共存、あるいは、異物や穢れの中から生まれる存在であろう。だが、そのことを悲観する必要はない。“裂け目”から今にも世界に生まれ出ようとしている顔の輝きと掲げるように持ったハートが、この存在の誕生が祝福されていることを示している。この存在は -“進化した人類”は- 穢れや異物を体内に持つからこそ、力強く生まれるのであろう。そして、力強く生まれることが期待されている“進化した人類”とは、作家自身であり、新たな作品であり、さらには、私たち自身でもあるのであろう。

文:内田淳
1977年生まれ。男性。工房ムジカ所属。現代詩、短歌、俳句を中心とした総合文芸誌「大衆文芸ムジカ」の編集に携わる。学生時代は認知科学、人工知能の研究を行う。その後、仕事の傍らにさまざまな市民活動、社会運動に関わることで、社会システムと思想との関係の重要性を認識し、その観点からアートを社会や人々の暮らしの中ににどのように位置づけるべきか、その再定義を試みている。
田中拓馬とは高校時代からの友人であり、初期から作品を見続けている。

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